二番油の“うま味”が味に豊かさと深みを与える蕎麦屋のからあげ

『蕎麦茶屋 嵯峨野』とり唐揚


 JR新橋駅前のSL広場からすぐ、ニュー新橋ビルの地下にある『蕎麦茶屋 嵯峨野』は、付近のサラリーマンたちに愛されるお蕎麦屋さん。そして夜は、これまたサラリーマンたちでにぎわう居酒屋となります。

 おつまみメニューも豊富で、とくにここの〈とり唐揚・550円〉は以前から私が目を付けていたひと品。初めて食べたとき「うまい!」と思えたからあげで、今回思い切って取材を申し込みました。

 平日の夜にお邪魔したのですが、店内は満席。私は「ご予約席」の札が置かれたテーブルに案内していただきました。さすがの人気ぶり、事前に訪問日時を伝えていなかったら入れなかったでしょう。

さて、食べたときの第一印象は「味が濃い!」ということ。しかしその濃さ、しょうゆによるものではありません。辛さはなく、もっと豊かで深みのある濃さ。ずっと疑問でしたが、今回の取材でその謎が解けたように思います。

 お蕎麦屋さんなので天ぷらは定番メニュー。女将さんに話を聞くと、こちらのからあげは天ぷらを揚げたあとの、いわゆる“二番油”で揚げているとのこと。そうすることで、からあげ表面の色合いがよくなり、油にしみ出した魚介や野菜のうま味も鶏肉にうまくからんでくれるんですね。私が「濃い!」と感じたあの味わいの秘密はそこにあったのです。これはお蕎麦屋さんならではのアイデア。

 衣はやや厚め。前歯を立てると、口の中からサクッサクッと、からあげらしいさわやかな音がします。奥歯で噛むと、今度はシャリッシャリッと小気味よい音が。軽いお焦げが香ばしさを増し、のどから鼻に抜けていくのがいいですね。肉は柔らかくて弾力もあります。口の中でフワリフワリと転がってくれる印象。うま味たっぷりの深い味わいと香ばしさで、ビールのアテにちょうどいいからあげです。

 ランチタイムのセットメニューにからあげはないそうですが、ぜひお蕎麦とのコラボレーションを楽しんでみたいものです。


徳間書店・食楽web「から活日記」より

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